東京や大阪などを対象に、3度目となる「緊急事態宣言」が出されるなか、懸念されているのが新型コロナウイルスの変異株の拡大だ。インド由来のものは感染力が強く、ワクチンが効きにくいとされ、日本でも感染者が確認された。
「発信源」であるインドでは、感染者が急速に拡大。2021年5月上旬には1日当たりの新規感染者数が40万人、死者は4000人を超え、世界最悪の感染ペースを記録している。「二重変異株」のほか「三重変異株」も出現する一方、発症した感染者にとって命にかかわる酸素が病院で不足するなど、現地では医療システムが崩壊状態となり、在留日本人からも死者が出る事態となった。
インドは「13億人の巨大市場」として注目され、日系企業の進出も続いたが、感染拡大によって次々と駐在員や家族が帰国している。「経済成長」という光の陰で、医療や衛生など社会インフラの整備を怠ってきたことのツケが、一気に露呈した形だ。
変異株以外の原因は?
なぜそれほどまでの「地獄」がインドにもたらされたのだろうか。感染力の強い変異株の存在とともに、原因の一つとして考えられるのが、インド政府の中途半端なコロナ対策だ。
インドでは、新型コロナが世界的な流行を見せはじめた2020年3月、全土でのロックダウン(都市封鎖)を実施した。6月になって段階的にロックダウンを解除し、感染者が集中するエリア以外では、都市部でも大部分の活動が再開されていた。
都市部のマーケットなどでは多くの人たちがマスクをせずに行き交い、同年10月にコロナ流行に備えて全土の病院など162ヵ所へ酸素製造装置の設置を計画したが、実行に移されたのは2割程度。ワクチンの接種も、人口の1割未満に過ぎない。
2021年3月下旬から感染者が拡大してきたにもかかわらず、北部にあるヒンズー教の聖地ハリドワルではその翌月、同教の祭典「クンブ・メラ」に600万人以上が訪れ、人々が密集するなかで大半がマスクをせずに沐浴した。
都市部の私立病院でさえ「日本の平均レベル以下」
2014年のデータでは、1000人当たりの医師数はインドは0.8人。日本(2.5人)やドイツ(4.3人)と比べても少なく、都市部への偏重を考えると、地方での医師不足は極めて深刻だ。私もニューデリーに滞在中、最もリスクと考えていたのが病気になった際の対応だった。
無料で治療を受けられる公立病院の前には、何日にもわたって治療を待つ人や家族がたむろし、炊き出しが行われているのが日常的で、冬には凍死する人も珍しくない。コロナ禍の以前から、インドは「医療崩壊」に直面していたとも言える。 5月中旬になって、ニューデリーなどの都市部では、感染者数の増加が横ばいの傾向にある。しかし、新規感染者数は30万人台と高いレベルにあり、地方での感染拡大は収まっていない。
インドが「新型コロナの感染大国」から「経済大国」へと再び看板を換えることができるまでには、まだ時間がかかるだろう。
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