ニックは幼少期のほとんどを、人を避けて過ごした。短気な父親と、自分が経験したトラウマを娘にも繰り返す母。そんな両親のもとで育ち、彼女は人を恐れ、孤立するようになった。
知り合い以外はみな恐怖の対象であると見なされる国において、ニックのような恐怖を持つことは珍しくない。
だが、彼女はそれが良くないことだと考えるようになり、人々と関わりを持とうと一歩踏み出した。年齢が上がると、彼女は会ったことのない人々との出会いを求め、旅をするようになった。
ニックはそれからより多くの人と関わりを持つようになった。
自分が教えられて育ったこととは違い、見知らぬ人々は危険でもなければ怖くもない、ということに彼女は気づいた。それどころか、彼らは安心感や帰属意識をもたらし、自分の世界を広げてくれる、と。
些細な繋がりの大きな力
現在、ニックはこの種の会話を「グレイハウンド・セラピー」と呼んでいる。文字通りに
は、(アメリカ最大の路線バス会社「グレイハウンド」の)長距離バスで隣に座った人と会話をすることを指すが、レストランであれスーパーであれ、「知らない人と会話をすること」全般に当てはまる。
こうした他人との交わりは彼女の人生を変えた。つらいことがあったとき、気がつくと「寂しさを紛らわすため」知らない人に話しかけていたと彼女は振り返る。
ニックの経験は示唆に富んでいる。というのも、社会的な人間関係の質が、人の幸福度や心身の健康の重要な指標になるということは、多くの研究が明らかにしているのだ。
しかし、そうした研究のほとんどが家族や友人、同僚といった親密な間柄のみを対象に行われてきた。ここ15年間でやっと、研究者たちは「他人」との交流も私たちにとって良いものであるかを検討しはじめた。
研究結果は驚くべきものだった。見知らぬ人と話をすることで、私たちがより幸福になり、社会との結びつきが強まり、頭が冴え、健康になり、孤独感が薄れ、人を信頼できるようになり、楽観的になることが研究によって繰り返し証明された。
いま、ニックは患者と心を通わせられる不思議な才能を持った看護師として成功し、優しく社交的な夫と幸せな結婚生活を送っている。
彼女はいまでも旅行が好きで、旅のあいだは乗物で隣の席になった人や、バーで近くに座った人を見て話しかけて良いか見極める。ヘッドホンを着けていたり、興味がなさそうに見えたりしたらそっとしておく。だが、受け入れてくれそうだと感じれば、彼女は「こんにちは」と言って反応を見る。
こうした会話はだいたいうまくいく。そしてそれが、この世の中には善が存在し、自分の居場所があるという安心感を彼女にもたらすという。「ほんの些細な繋がりでも、その力をあなどってはいけません」
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