11年前、ピーター・ターチンというコネチカット大学の研究者が「ネイチャー」において、驚くべき予言をしていた。「アメリカと西ヨーロッパにおいて、今後の10年は不安定化の時代となる可能性が高い」
ターチンがその一因として着目したのが、「大学院の学位を持つ若者が過剰生産されていること」だった。
その後、予想が的中したかのように、ヨーロッパではポピュリズムが台頭し、2016年には国民投票でイギリスがEU離脱を選択するという予想外の展開が起き、アメリカではドナルド・トランプ大統領が誕生した。
古代ローマや王朝時代の中国の太古から、社会では大体50年ごとに政治の安定期と不安定期が交互に訪れてきたと、ターチンはいう。
アメリカを例にとると、民主党も共和党も少しも歩み寄ろうとせず、連邦議会は膠着状態にある。
いったい何が平穏を崩し、カオスを到来させるのか。ターチンは、社会を一つの大きな複雑なシステムとみなし、そのシステムに法則のような規則性を見つけようとする。
権力を握れないエリートが反乱を起こす
ターチンの予測モデルは多くの要素を考慮しているが、その歴史観は「これまでのすべての社会の歴史は階級闘争の歴史だ」というもので、カール・マルクスの見方と似ている。
しかし、プロレタリア(賃金労働者)に注目したマルクスとは異なり、ターチンが重要視するのはエリート層だ。
エリート同士の争いが特に激しくなるのは経済格差が拡大しているときだ。そのようなときに上の座につくことで得られる利益は、所得面でも政治影響力の面でもより大きくなる。そして上位層に入れない者は、それによって失ったものの大きさをより強烈に感じやすくなる。
そして、自分はエリートだという自意識がある人ほど、不満をためる。一方、教育水準は時代とともに高まる傾向にあり、社会にはエリート予備軍が増え続けて状況を悪化させる。
こうした要因がすべて相まり、政治的混乱が生まれるとターチンは考えている。自分の考えを雄弁に語れる高学歴者が反乱を起こすと、政治や経済の世界で権力の奪い合いが始まる。エリート同士の協力関係が消え、支配層に対立する対抗エリートが登場し、秩序が崩壊するというわけだ。
社会の安定はいつか取り戻せる
ターチンの理論によれば、政治の激動はやがておさまるという。「遅かれ早かれ、大半の人は、安定を取り戻し、闘いが終わることを望むようになる」
実際ヨーロッパでは、左派のポピュリズム政党も右派のポピュリズム政党も、支持率が下落傾向にあるのがデータから見てとれる。アメリカでも、トランプは大統領に再選されなかった。
政治の不安定化を回避する一つの方法は、エリートになりたがる人の数を減らすことだろう。
とはいえ、見識のあるエリートが適切に振る舞うほうが、政治の不安定化をより効果的に防げるだろう。20世紀初め、アメリカの改革派は相続税の引き上げを実施して世襲貴族の出現を食い止め、トラストの大規模な取り締まりも実施した。
社会に作用する構造的な力を分析するターチンの理論は、政治の不安定化を分析するうえで非常に興味深い。だが、クリオダイナミクスが、誰にも変えられない宿命のようなものではないことだけは肝に銘じておくべきだろう。
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