パランティア・テクノロジーズ。この社名はJ・R・R・トールキンの長編小説『指輪物語』に出てくる遠見の石「パランティア」から採られた。
同社の主要ソフトウェアは「ゴッサム」と「ファウンドリー」の2種類だ。いずれも膨大な量のデータを集めて処理し、人間のアナリストが見落としてしまいがちなつながりやパターン、トレンドを見つけ出す。
「データ統合」によって組織がいい決断を下せるようにするのがこの会社の目標だ。実際、同社の顧客の多くが、パランティアの技術によって組織が変貌を遂げた。
「これまで数件のテロ攻撃を阻止した」
パランティアが創設されたのは2003年。カープの友人であり、ロースクールの同期だったピーター・ティールの思いつきから生まれた。
創業資金の一部は、米諜報機関「CIA」のベンチャーキャピタル部門「インキューテル」が出資し、CIAは現在も顧客だ。ウサマ・ビンラディンの所在地を突き止めたのがパランティアの技術だったという噂が広く知られるが、その噂の真相はこれまで一度も明らかにされていない。それがこの会社に謎めいた雰囲気を持たせてきた。
昨今、パランティアを使ってテロ対策をしている西側諸国は複数ある。フランスでは2015年11月のパリのテロ事件の後、諜報機関が利用するようになった。
また、米国の陸軍はパランティアの技術をおもに兵站(へいたん)に用いているが、投資銀行のクレディ・スイスはマネーロンダリング対策、ドイツの製薬大手メルクは新薬開発のスピードアップ、スクーデリア・フェラーリはF1カーのスピードを上げるために利用している。
「すべてのテクノロジーは危険です」
パランティアの従業員はパランティリアンとも呼ばれる。パランティリアンたちに言わせると、自分たちのソフトウェアに無数の用途があるのは、世の中の問題の多くがデータ統合の問題だからなのだという。
ただし、パランティアに対する世間の不信感は強い。それは同社がコロナ対策に乗り出すといっそう強まった。
欧州諸国でこの会社が不審がられる理由の一端はCIAとのつながりがあるところだが、もともと不審がられる性質の業務をしている会社なのだというところもある。パランティアは顧客のデータを保存したり、販売したりすることはないと公言しており、プライバシー保護機能も堅牢だと強調する。
だが、個人情報を神聖不可侵だと考える人たちの間では、パランティアはビッグデータ革命における代表的な悪役なのだ。
膨大な数の人の医療データがパランティアのソフトウェアに入っていくわけだから不安感が高まるのも当然だった。
それがとりわけ顕著だったのが米国だ。米国では保健福祉省がパランティアのソフトウェアを使ってウイルス関連のデータを分析してきた。このことに批判が集まったのは、パランティアが米移民・税関捜査局(ICE)とも仕事をしていることが関係していた。
米国のリベラル派の間では、パランティアはトランプ大統領との結びつきがある胡散臭い会社だという見方が根付いており、そのことがカープを苛立たせている。
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