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執筆者の写真Shunta Takahashi

90年代のサンフランシスコで結ばれた「タコス・ブリトーの契約」とは?【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.164】

1998年から99年にかけて、サンフランシスコでは一風変わった契約が結ばれていた。その契約を結んだのは40人ほどの地元民と、同市のミッション地区にあった地元の小さな老舗メキシコ料理店「カサ・サンチェス」。


オーナー夫妻が「店のマークのタトゥーを入れたら、ランチが一生無料」という看板を出してみたことから、この「タコス・ブリトーの契約」は始まった。


地元メディア「SFゲート」によれば、きっかけは常連の女性客がある日、同店のマークのタトゥーを入れて来店したことだったという。「これ、どう思う?」と聞かれたオーナーのマーサはとっさに、「あなたには一生ランチを無料で提供するわ!」と言ってしまったのだそうだ。


そして、ひとりの常連客に約束したことは他の常連にも約束しなければと思ったのか、マーサは前述の看板を出すことに決めた。


そのグレッグという名の彼は、当時35歳でサンフランシスコ在住歴2年のバーテンダーだった。この店の味の大ファンだったことから「一生無料」という言葉に惹かれたそうだ。


彼は後日、タトゥー経験が豊富な友人のグィードを連れて再来店し、ブリトーのためにタトゥーを入れるべきか否か意見を仰いだ。味もいいし、マークのデザインもいい。「アリでしょ!」と背中を押され、その夜二人はグィードの行きつけの地元のタトゥーショップに向かい、80ドル(約8800円)でタトゥーを入れたという。


こうして二人は同店と契約を結んだ二人目と三人目の地元民になった。

さらに、全米規模のメディアが取材し始めると、観光客も店を訪れるようになり長蛇の列ができていたこともあったそうだ。店にとっては予想以上の宣伝効果だ。


「メディアがやってくるたびに、僕らタトゥーを入れた常連たちは店に集まって再会を楽しんだ」と、グレッグは振り返る。


「タトゥーを入れたことで、この店を中心に、家族のような繋がりができた。マーサをはじめ、サンチェス家の人たちはいつも僕を家族のように迎えてくれた」

タトゥーが色褪せた今も… タトゥーの代わりに得たもの

この「タコス・ブリトーの契約」を結んだ地元民の数は、あっという間に40人ほどに達した。想定外の展開にオーナー夫妻は慌てて計算してみた。彼らがもし、今後50年間、サンフランシスコに住み続けて毎日のようにランチを食べに来た場合、「580万ドルの出費になってしまうじゃないか!」。大赤字になる前に手を打とうと、「タコス・ブリトーの契約」のキャンペーンは早々に打ち切られ、最初の約40人とのみ契約履行し続けたそうだ。


8ドルのランチのために生涯消えないタトゥーを入れるという選択をする「変わり者」の多さは、当時のサンフランシスコがいかに独特で、ユニークだったかを現していると、「SFゲート」は述べている。


だが、21世紀の現在のサンフランシスコに住む若者たちの多くは、この地元密着型の契約のことを知らない。

なぜなら、店はもうないからだ。


オーナー夫妻が店を売ったのは2012年。次のビジネス・ステージへと移るために、店を畳んだそうだ。「カサ・サンチェス」のリースを継いだのは「ププサ(トウモロコシ粉で作ったパンケーキのようなもの)」を売るエクアドル系の店だった。


レガシーを継ぐために、同店もカサ・サンチェスのタトゥーを入れたOB・OGには無料ランチを提供し続けているそうだ。


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