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執筆者の写真Shunta Takahashi

私は時給9ドルで仮設トイレの「見張り番」になってホームレスから抜け出した【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.98】

ウーデンバーグが「見張り番」をする仮設トイレは、若者ホームレス向けシェルターの向かい側にある。周囲に散らばった注射針とメタンフェタミン(覚せい剤)の吸引パイプを片づけることも、時給9ドルで働く彼女の仕事だ。


トイレの中で薬物を過剰摂取する者は後を絶たない。先日、意識を失ってトイレから引きずり出した人物は、ウーデンバーグの仲のいい友人だった。


ウーデンバーグは、プラスチック製のドアを思いっきり開けて、彼女を清掃用具が置いてある場所まで引きずっていった。ウーデンバーグが仮設トイレの見張りの職に就いたのは1年半前だ。ホームレス状態から抜け出したい一心だった。


ホームレスの増加は、彼女が暮らすユタ州ソルトレイクシティだけでなく、アメリカ全体の問題となっている。米政府の2020年の推定によると、アメリカでは毎晩、シェルターや路上で夜を明かす人が60万人近く存在する。路上生活者を支援する団体の多くは、実態はそれよりはるかに多いと指摘する。


ホームレスだった1年半の間、彼女は70回以上も緊急番号911番に通報した。不安と鬱の症状があまりにもひどく、何度となく自殺願望を抱いたからだ。


特につらかったのは、市当局が仮設トイレのある一帯からホームレスを一掃し、900サウスストリートに強制移動させたときだった。900サウス沿いには、次々と増えるホームレスのテントが連なり、間に合わせの調理場があり、段ボールが山と積まれている。


武装した麻薬の売人もうろつく

3月のある金曜日、ウーデンバーグは6時間のシフトにつくと、周囲に目を配った。向かいのシェルター前にはコンクリートの路上に腹ばいで横たわる男性がひとりいる。彼のほかに、生え際が後退している赤毛の長身でたくましい男性が仮設トイレに入ろうとしている。要注意だとウーデンバーグは思った。


「その500ウェストの一帯はかなり危険だ」とソルトレイクシティ警察のジョセフ・テイラー巡査は言う。「あの辺りには正真正銘のホームレスがいます。武器を持った麻薬の売人もうろついています。そうなれば、犠牲者が出るわけです」


ソルトレイクシティにはホームレス用の仮設トイレが15ヵ所に設置されている。同市が位置するソルトレイク郡では、路上生活者の数が2020年に6%増加したことが、州の年次報告書で明らかになっている。


しかし、2020年7月にエリン・メンデンホール市長が野球場の近くに仮設トイレを新たに2ヵ所設置することを承認すると、地域住民が懸念を示した。ホームレスが増えれば暴力沙汰が起きるのではないかというのだ。結局、その2つの仮設トイレは撤去された。

両親に捨てられて自殺未遂


彼女の名前はセレニティ・ピーターソン(19)。12歳のときからホームレスで、家出をして、州運営のグループホームからも飛び出したのだという。


「15歳のときに誘拐されて、ヘロイン漬けにされたの。1週間くらいだったと思うけど、もっと長かったかも。ヘロインとメタンフェタミンでラリってたから」

ピーターソンは両親がともにホームレスだが、どちらともあまり付き合いがないようだ。

ウーデンバーグは14歳で里子に出された。そのころからメンタルヘルスに問題を抱え、自殺願望があったという。父親は主に引っ越し会社で、母親は1ドルショップで働いている。


ウーデンバーグが必要としていた心理療法を受けさせるお金がなかったため、両親は娘を里親に出した。そうすれば、州からの補助金で治療を受けられるからだ。


2年前、ウーデンバーグを唯一励まし、理解してくれていた祖母が亡くなった。それがきっかけでウーデンバーグは自殺を図り、州立病院に入院。半年ほどで退院したとき、両親はすでに寝室が一部屋しかないアパートに引っ越しており、彼女の居場所はなかったという。そこで彼女は自宅に戻らず、VOA運営の若者向けシェルターに入った。


「見捨てられたような気持ちになったかな」とウーデンバーグは振り返る。

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