日本企業はこの30年、あらゆる手段を使って商品価格を据え置いてきた。
そのせいで「インフレの可能性はゼロ」という考え方が国民のあいだにも根づき、企業側も、OECD加盟諸国で最も低い平均賃上げ率を何の恥じらいもなく労働者に押しつけた。
労働力人口が減少し、飲食店の従業員からエンジニアに至る幅広い分野で人材が不足しているにもかかわらず、各部門の労働組合もその状況に異を唱えなかった。
だが突然、風向きが変わりはじめた。コロナ禍から2年が経過した今春、エネルギー価格とともに、日本人のお気に入りのスナック菓子を含めた物価が1979年以来はじめて上昇に転じたのだ。
この春に職場に配属される新人社員は、春闘が数十年ぶりにもたらす変化の恩恵を受けるだろうと、楽観的な見方をする向きもある。
生産性は向上しているのに、給料は据え置き
過去30年、日本のインフレ率は年平均0.3%で推移していたが、2022年は1.1%に達するとの予測もある。世界的に見ればさほど高い数値ではないが、日本にとっては急激な上昇だ。
経営者や労働組合トップ、アナリストおよびエコノミストらは一様に、インフレ率上昇は「春闘」と呼ばれる全国規模の賃上げ交渉に大きな影響を及ぼすだろうと口をそろえる。春闘は、トヨタやソニーなど、大手労使の4週間に及ぶ交渉から始まる。
日本最大の労働組合「連合(日本労働組合総連合会)」の芳野友子会長は春闘の労使交渉に先立ち、傘下の組合に対してこう発言した。
「日本では1997年をピークに賃金がほとんど上がっておらず、賃金水準も先進国のなかで最低です。生産性は向上しているのに、賃金は据え置かれたまま。労働者に適正な分配がおこなわれてきたとはとても言えません」
昨年10月、連合初の女性会長となった芳野は傘下のすべての組合に対し、賃上げ要求を出すように訴えた。経団連も、「一律の賃上げは非現実的」と述べていた昨年から一転して、新型コロナによる業績不振から回復した会員企業に賃上げを要請する。
ただし、新たな変異株の出現という不安材料が、せっかくの賃上げの機運に水を差す恐れがある。それでも「首相はいまが歴史的な好機だと考えている」と、政権にごく近い関係者は話す。
安倍晋三元首相はアベノミクスと呼ばれる一連の経済改革に着手したものの、いくつかは評判倒れに終わった。とりわけ、持続可能な賃上げが日本の企業文化に定着しなかったのは無視できない。賃上げなくして、消費の底上げも経済成長もないからだ。
日本政府も日本銀行もこの30年、デフレ脱却に向けたさまざまな施策を繰り出しては頓挫した。後に彼らはその失敗を「構造的に問題があった」と説明した。
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