今年に入ってから文大統領は歴史認識などをめぐって日本に対する強硬な発言はピタリと控えるようになり、日本との関係改善に強い意欲を示してきた。
安倍・菅両政権は、徴用工訴訟や慰安婦訴訟をめぐる韓国司法の一連の判決に猛反発し、とくに菅政権は首脳会談に関しては「塩対応」で応じず、厳しい姿勢で韓国側に判決についての是正措置を要求してきた。
「平和の祭典」であるオリンピックにふさわしい雰囲気を意識して菅首相が文大統領と談笑すれば、その構図は韓国側で「日本が歩み寄った」と宣伝されかねない、と官邸は懸念したという。
そうした警戒感を踏まえつつ、私が惜しまれると考えるのは、歴史認識を背景にした摩擦のせいで未来志向のイシューまでも首脳同士で話し合う機会が喪失されたためだ。なかでも、行政のデジタル化、電子政府の構築を日本政府が真剣に急ぎたいのであれば、隣国から学ぶところは大いにある。
アジア勢トップの韓国
国連が2年に一度発表している「世界電子政府ランキング」をみると、2020年は韓国が2位。アジア勢では唯一のトップ10入りだ(1位はデンマーク)。
韓国のメディアから東京特派員として来日する記者の多くが、まず驚くことの一つが、日本では今でもFAXがけっこうな頻度で使われていることだ。新型コロナウイルス禍では、保健所から自治体にあがる陽性例の報告が、大部分はFAXであることには、多くの日本人も驚いたのではないだろうか。
話を韓国に戻すと、「政府24」は、その前身となったポータルサイト「民顧24」のサービス開始以降、年間約1420億円の経済・社会コストを減らした。また、紙の使用量や交通機関利用の削減によって二酸化炭素排出量を約2万2000トン削減したという。
日本の政府や企業も近年は地球環境への配慮から紙の使用量を減らそうとの掛け声は高まっているが、DXは確実にその実現を早める。日本のワクチンパスポートがアプリではなく紙の形で登場することの是非に、もう少し議論が高まってもいいように思える。
電子政府はもはや韓国の輸出産業に
韓国は、先進的な電子政府を構築しただけでなく、現在ではそれを外国に輸出している。
たとえば、インドネシアに財政や国税の部門で、マレーシアには税金、交通、郵便などで、あるいはアフリカのタンザニアには防災で。韓国当局は、それらの部門の行政をデジタル化させるためのプラットフォームを販売し、相手国とともにシステムを構築、そして安定して運用するための研修も実施している。
過去が未来の前に立ちはだかり続けるのか
近年、日韓の両政府とも「未来志向の両国関係を」と繰り返し唱えてきた。だが、実際には、韓国の司法による予想外の判決などが発火点となって歴史認識をめぐる対立が噴出し、未来志向の動きの足枷となってきたのが実態だ。
DXや電子政府づくりという、今の日本にとって極めて重要な課題に取り組むうえで、政府は歴史のファクターは排除して、電子政府先進国である韓国のノウハウをより積極的に吸収してほしい。
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