広告が「夢のなか」に入り込む? 企業が私たちの睡眠を“操作”すると何が起きるのか【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.114】
米ビール大手モルソン・クアーズが今年はじめに発表した新しい広告キャンペーンは、多くの人の度肝を抜いた。人の夢のなかに入り込み、クアーズのビールを買わせ、おそらくは飲ませることを計画していたからだ。
このキャンペーンでクアーズは、寝る前に短い動画を視聴して、8時間の「環境音」を再生しながら眠りにつくよう消費者に呼びかけた。寝ている人の夢を誘導するこの「ターゲット・ドリーム・インキュベーション(TDI)」と呼ばれる手法は、うまくいけばクアーズの「さわやかな夢」を誘発すると同社は説明している。
すでに公開書簡で注意喚起も
精神医学教授のボブ・スティックゴールドは、クアーズの取り組みは「他人に左右されやすい人たちに中毒性の薬物を押しつけようとする行為です。それ以上にひどい影響をもたらし得るかはわかりません」と苦言を呈す。他の企業が模倣する可能性もあるという。
6月には、企業がTDIを活用することに注意喚起する公開書簡が発表された。
「TDIを使った広告は面白い仕掛けではなく、実質的な影響を伴う危険な坂道だ」と書簡は警告を発している。「こうした技術が誤用される可能性は明らかであると同時に恐ろしい」という。
私たちは「睡眠中に浮かぶ思考」に影響されやすい
研究者らによると、ドリーム・インキュベーション、つまり「特定のテーマの夢が見られるよう覚醒中に用いる手法」の概念は何千年も前から存在している。
人が見る夢はターゲットを絞り込めるということ、そして人間は睡眠中に入ってくる思考やアイデアに極めて影響されやすいということは、過去10年間の研究で明らかになっている。
2014年の研究では、睡眠中にたばこと腐った卵のにおいをかがされた喫煙者の喫煙量が翌週に30%減少するという結果が出た。一方、別の研究では、TDIによって人種的な偏見を減らせることが分かったとスティックゴールドはいう。
課題は「現実と夢」とのリンク
ただ、すべてが簡単にはいかないだろう。夢を通してあるプロジェクトを無意識に売り込むには、そうした潜在的な広告キャンペーンを、消費者が目覚めているあいだに見る広告とリンクさせる必要がある。
スティックゴールドは、ある商品がテレビやユーチューブの広告に映るたびに特定の音を流すことで、リンク付けできる可能性もあるとみている。
理論上は、その音を誰かが寝ているときにスマートスピーカーなどで再生すれば、ビールを飲むこと、あるいはアイリッシュギターとバイオリンが奏でるアンサンブルを聞くことの素晴らしさが夢に現れる。
夢という“聖域”は守られるのか
夢に侵入する可能性を一部企業が盛んに検討していると研究者たちは主張しているものの、FTCはこの問題に取り組むかどうかまだ明言していない。
当面のあいだは私たちの眠りは安全かもしれないが、脅威は現実化していると科学者たちはみている。研究者たちは公開書簡にこう記す。
「先を見据えた対応と新たな保護策が緊急に必要だと考えます。私たちの意識と無意識が最後に逃げ込む砦、『夢』を広告主たちが操作できないようにするためです。
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